灰野敬二、太田恵資2003/7/5 大泉学園 in F
灰野と太田の２度目の共演ライヴです。前回４月にここで行われた初共演ライヴが予想を上回る素晴らしい内容で、本人たちも再共演を望んだためか異例の短期間での２度目のライヴ実現となりました。
灰野はいつもの黒テレキャス、sazを使用。さらに前に椅子を並べてRAJ MUSICALSの電子ドローンマシン、ALESISのAir FXとAir Synthという２台のエフェクター、ZOOMのRT-123（ドラムマシン）を並べます。太田はアコースティック（マイクで拾う）とエレクトリックの２台のヴァイオリン、拡声器、ハンドドラム等を用意。
１．太田の「愛と魂の音楽家・灰野敬二。憎しみと偽りの太田恵資」というMCでスタート（これには灰野も苦笑）。まずは灰野がドローンマシンを鳴らしながらのヴォーカル、その後はAir SynthとAir FXを使って、音程・音色・音量のいずれもが振幅の極端に大きい電子的な音響を加えていきます。この２つの機材はいわばテルミンとカオスパッドを合体させたようなものですが、本体に手をかざすことによって音色や変調度合が変化するというもので、これを灰野が演奏する姿はハンドパワーというか、まさに魔術的。灰野がライヴで使うために作られたようなはまり具合です。太田はアコースティックvlnによるかなりテクニカルな演奏を加えていきます。
ここまで約１５分。
２．灰野はギターに持ち替えてゆっくりと弾き鳴らしながら、ピーターの「夜と朝の間に」を歌います。たっぷりと時間をかけ、引き延ばされた歌は元曲の強烈さをさらに増幅させたような、ダウナーで実に濃い世界を現出させていきます。これはもう選曲の勝利としか言いようがありません。太田はエレクトリックvlnにディレイループを使い、前回のライヴ同様メロディアスかつ自由度の高い演奏で灰野の歌世界を彩っていきます。太田のファズトーンを使ったソロパートと、それに続く灰野の電子変調されたされたギターの宇宙的な音のパートは、ダウナーな曲調が続く中でのメリハリとして実に効果的です。
ここまで２５分。
３．歌がようやく一段落すると、すかさず太田がテンポの速いフレーズを繰り出し、これに灰野がギター単音弾きを加えてケルト風エスノ・セッションへ。灰野はオクターバーを使い、ベースパートまでもカバーします。その後は太田のディレイループによるリズムを軸に灰野のファズトーンによるソロが絡む形で進行。太田の偽アラブ人ヴォイスと灰野のソリッドな刻みがぶつかり合う場面は凄まじい緊張感。灰野は生音中心だった前回のライヴから一転、今回はファズトーンを多用。これに太田もファズを使ったソロで応戦、ラウドな音でのバトルから。灰野の爪弾くようなフレーズで終了。
ここまで約２０分。ここで休憩。
４．後半は灰野がsazをまず演奏。ドローンマシンをエフェクトやアンプを通さずに生音で鳴らしながら演奏します。これに太田はアコースティックvlnでアラブ風のフレーズを弾いて対抗。かなり本格的（？）なアラブ風エスニック・セッションへ展開していきます。後半、太田はハンドドラムに持ち替えてリズムを加える中、灰野のソロパートへ突入。最後は太田の喉歌と灰野の気合ヴォイスが激突して終了。
約２５分。
５．灰野は再びAir SynthとAir FXを使った電子音を使用します。電子音的だった最初のセットに比べ、ギターのエフェクト類を通したため、エレクトリックセットでのギターのような音に。太田がこれにディレイループを使った１人アンサンブル（なんとなく坂本弘道ソロを思い出した）を加えると、灰野もギターに持ち替えてメロディアスな演奏を加えていきます。太田はシェイカーを持ち出して灰野の演奏にリズムを加えようとしますが、ちょっと苦戦気味。その後はジャズ風のセッション（あくまでこの２人流ですが）から、前半のラスト同様、ラウド＆ヘヴィな音でのバトルが続きます。なんだかFというよりSHOWBOATあたりでやっているような錯覚を覚えます。ここまでラウドな音のぶつかり合いになるならいっその事ドラムを入れてほしいなと思いましたが、終演後灰野が「ドラムマシンを用意していたけど、セッティング変更の都合で入れられなかった」という話を聞いて、これは惜しいと感じました。リハでは使っていたようですが。最後は灰野の素朴でメロディアスなフレーズで終了。このエンディングは前回も使っていましたが、このパターンは気に入っているようです。
約２５分、アンコールは無し。
今回は太田のお笑いネタは無かった（あったかもしれないが演奏でかき消された？）ものの、前回とはまた違ったアプローチで高レベルを保った素晴らしい内容ででした。この２人の引き出しはまだまだ深そうなので、今後も定期的な共演を実現してほしいです。