フランスの即興チェロ奏者、ユーグ・ヴァンサン（実際の発音はちょっと違いますが難しい為表記はこれで）を迎えてのライヴです。ヴァンサンは昨年ONJOがフランスで公演を行った際、現地ミュージシャンを加えて行ったライヴに参加した中の１人で、その際芳垣と知り合い、今回ヴァンサンが来日した際共演を依頼して今回のライヴとなりました。
ヴァンサンはチェロをマイクとラインの２方式で音を拾い、ラインの方はOCTABASS EBS（オクターバー）、BIG MUFF（ファズ）、MXRのプリアンプ、ヴォリュームペダルを通して、アンプは使わずPAに直接入れて音を出します。音量の大きい他の楽器群に比べても負けないヴォリュームでした。勝井はRAT2（ファズ），ワウペダル、コンパクトディレイ×２、LINE6のDL4、ヴォリュームペダルという構成。ナスノはファズ、ヴォリュームペダル、そして久々に手元のDIGITECHのディレイを使用。芳垣のセットは店置きのと思われるセットを１タム1フロアの構成で使用。ステージ右端に横向きにドラムをセット。
１．勝井とヴァンサンのフリーな弦アンサンブルに芳垣がブラシを使った手数の多いプレイを絡める形からスタート。vlnとcelloという楽器構成ですがプレイの性質上室内楽ぽい感じはほとんど受けません。フリーからリズムが徐々に明確化していくと、弦のアンサンブルもそれにつれて明快なハーモニーへと変わっていきます。ヴァンサンの演奏はトリッキーな奏法も交えますがかなりまともなフレージングが目立ちます。また、オクターブ下の音を加えてピチカートで弾き、ウッドベースのような奏法を見せたり、ファズトーン（ただし音量はかなり抑えめ）にして歯ブラシなどを使ってノイジーな音を使う場面も。他の３人はかなりおなじみの顔ぶれですが、ヴァンサンが入るとちょっと異質な要素が混じって、アンサンブルに違和感が出るのが逆に新鮮で面白い。これは多分に狙ってのものでしょう。終盤は突っ走る５拍子のリズムを中心に展開して終了。３０分強の演奏。
２．誰が演奏の口火を切るか散々譲り合った挙げ句、結局最初に指名されたナスノの主導にヴァンサンが入る形でスタート。その後は全員のフリーながらアタック感のある演奏を中心に展開。さらに６拍子の疾走リズムや高速スクエアビートといったリズム主導の展開と、弦楽器を中心にした静の展開が交互に出てくる形で進行。特に終盤の疾走感＆上昇感は、ROVOのそれを彷彿させるものでなかなかの迫力。１５分強の演奏。ここで休憩。
３．後半冒頭は、ヴァンサンが小さなオルゴールをチェロのブリッジ付近に当てて鳴らす演奏からスタート。こういう手法は坂本弘道がよく使いますがアヴァン系チェロ界では定番なのか？ さらに真珠（？）のネックレスをボディに垂らし、当たる音のノイズを交えるなどの場面から、リズムが入って５拍子や３拍子系ポリリズムの場面が続きます。ヴァンサンがウッドベース風奏法を見せると、ナスノはファズをかけた中音域でギターの刻み風の演奏で対応。ヴァンサンは最低音弦を弾いたチェロをモニタースピーカーに向けて倒す奏法を見せます。これはフィードバック効果を狙っていたか？ 続くヴァンサンが手を休めてレゲエ・ダブ風の展開となる場面では、３人の互いの間合いや出方を知り尽くした展開が見られ、この手練感がヴァンサンの入った編成との違いをさらに浮き立たせるのが興味深い。ヴァンサンが弓を回すようにしてループ的な奏法を見せ、芳垣が外したシンバルをタム上に乗せて叩きまくる場面から、速いテンポのリズムが浮上しこれにフリーキーなヴァンサンとメロディアスな勝井の対照的なインタープレイが同時進行する形で乗り、最後はフェードアウト後小音量のチェロの特殊奏法がしばらく続いた後に終了。４０分弱。
４．これで終わりかと思ったらナスノの発言で短くもう１セットやることに。ヴァンサンはチェロを置き、灰皿に鉄球を入れてジャラジャラとかき回し、芳垣の小金物類とのバトル（？）を展開。その後はブラシを使った静の４ビートに、ヴァンサンがチェロを横抱きにしてピチカートで演奏（これも坂本弘道チック）。静かな演奏の合間に時折大音量の脅かしが突然挿入されます。５分ほどの演奏。
５．アンコールセット。一人だけベースを持って演奏を始めようとするナスノに、この日のこれまでの言動から「KY」の称号が(^_^;)。ナスノのしゃべりにヴァンサンが演奏を重ねる形から始まりかけ、グダグダのまま１分ほどで終了。さすがKY(^_^;)。
おなじみのメンバーの中に１人馴染みきっていない新顔が入り、どこか違和感の残ったまま演奏が続きましたが、逆にこれがいつもと違った新鮮味となったのが面白かった。これで共演を続けていくとまた違った感じになるんでしょうが。