山本精一・スイミンショウ

2025/12/7　青山Goethe-Institut

同所で行われている展示企画「SOLITUDE 安堵と静寂」の一環として行われたライヴです。これはゲーテ・インスティトゥートが２年間に渡って中央～東アジア全域で取り組んでいる芸術プロジェクトの一環として、日本では12/2～7にわたって行われ、来年夏にベルリンで終了する予定。日本でのプロジェクトは六本木スーパーデラックスの元主催者のマーク・クベックがキュレーションで、常設の展示とパフォーマンスに加えて灰野敬二、PHEW、そしてこの日の山本とスーデラに縁の深いアーティストを招聘したライヴも行われます。この日は最終日で山本がスーデラで2009～2010年に過去２度行ったスイミンショウを再演する、というもの。スーデラ亡き後はこの形態でのライヴができる環境がなく諦めていましたがまさかの再演。この展示企画のコンセプトは「孤独、孤立、自発的に社会から距離を取る隠遁」がテーマとのことでこの演目はまさにピッタリ。

山本はステージのすぐ下に場所を設定して前回同様横になって演奏。観客（ほとんど演奏者が見えないのでこういう表現は変かも）はフロア上に各自持参したマット等を敷いてその上に横になって演奏を聴きます。スーデラでやった時は一応カーペットが用意されていましたが今回は無し。ステージ上は関係者のスペースだったようです。今回はフロア上に一人分ずつのスペース（1畳くらい）がバミってあり、それに合わせて場所を取ります。山本は黒ストラトを使用。エフェクターは山本の右手側にBOSS AB-2（スイッチ）を通して２系統に分けられ、１系統はFLAMMA FS02（リバーブ）を通してステージ上に置かれたアンプ（JC-40）へ、もう１系統はオーバードライブ、BIG MUFF Pi、ELECTRO HARMONIX FREEZE（出し入れを頻繁にするためこれだけ手元に寄せている）BOSSのペダル２つ（カバーが外れていたため不明。おそらくピッチシフターかリバーブ系）、ディレイ、そして少し離れた足元付近にもう１台ディレイが置かれ、こちらはステレオ出力で客席中央付近に上向きに置かれたアンプ２台へ。また、カオスパッド・ミニも（これはラインでPAから出ていたよう）。左手側にはバックトラック用にROLAND VS-880（MTR）が置かれています。

全員が横になって待機していると、山本がこっそり入ってきてそのまま演奏開始。演奏開始時点では暗めながらも照明は残っていましたが、演奏が進むにつれて落ちていき結局ほぼ全編暗闇の中での演奏となります。過去２回は天井に映像を映していたのでこれは大きな相違点。山本はまずステージ上のアンプから、トーンを絞りリバーブをかけた音色で静かに爪弾くような演奏からスタート。しばらくしてスイッチで客席側のアンプに切り替え、FREEZEの持続音も加えてフレーズが判別できないようなドローン的な音を出し、これにバックトラックのものと思われる微細な電子音を出し入れする形で展開。バックトラックは持続的なホワイトノイズや遠くから聞こえるようなゆったりとしたシーケンスフレーズ（過去のアンビエントライヴで使っていたものかも）などを流しつつ、ギターの方は変化を最小限にしたドローン音を出し続けます。いったん全ての音が引いて無音状態になり、今度は低音のドローン音（PA側から聞こえたのでバックトラックのものかも）を中心に、これに手弾きでこれも判別不能な曖昧な音の演奏やロングドローンを加えていく形で展開。ここも変化は最小限で可能な限り同じ音を持続していくような意図を感じるところ。そしてカオスパッドで変調したホワイトノイズと思われる音を中心にした展開となり、あるポイントのノイズをずっと持続させたままこれまで以上に広がりのあるドローン音（聞きようによってはシンフォニックにも感じられる）、ゆっくりとした手弾きフレーズ（さらにゆっくりとテンポダウンしていく）、微細な電子音などが現れては消えていき、最終的には長い時間をかけてそれらの音が少しずつフェードアウトし、最後にはFREEZEのものと思われる揺らぎのあるドローンだけが残り、やがてそれも消えていくと長い無音＆暗闇の時間、そして照明が少し点いて山本が小声で終了を宣言して終了。過去２回は終わっても多くの人が眠ったままで拍手もほとんど起きませんでしたが今回は比較的この時点では起きていた人が多かったようで、山本はそのままノーマイクのトークへ。それによると今回は過去の２回を踏まえて「退屈な演奏をする」というコンセプトでやったという話に。要は創造性や刺激のある演奏だと聞いてしまって眠れなくなるため逆の発想でこういうアプローチにしたようですが、「演奏している自分が退屈で途中寝てしまったw」ということで効果については微妙だったようでした(^_^;)。結局最後の無音の時間や山本のトークの時間も含めて約105分のトータルタイムでした。用意されていた歪み系エフェクターは使用せず、またアコギの音なども今回は未使用でした。

で私はどうだったかというと、過去２回と同様最後まで寝ずにずっと演奏を聞けてしまいました(^_^;)。これは個人的な資質で何か意味性のありそうな音を聞いているとそこに意識が向いてしまって眠れなくなる性質なようです。そういえば私はライヴを見ていて寝てしまったという経験は（覚えている限り）ありません。寝そうになったのは過去数回ありましたが、それは法政大での大友良英の演奏や、山本のやった「ひとり爆音上映会」など、こういうアンビエントな音ではなくてむしろ大音響・音による振動が気持ちよかったケースです。こういうのは私ぐらいかと思ったら、後で山本と話していた数人がやはり寝られなかったと言っていたので、意外とこういう人は多いのかもしれません。

ところで早く会場に着いたので展示も少し見ましたが、一番面白かったのが毛利悠子の"Decomposition"。これはみかん４個に電極を刺し、電流の流れを音に変えてランダムな電子音がPAスピーカーから出力され、同時にライティングも明滅するもの。ちょっとポンコツなロボット同士が会話しているようでずっと聞いていても飽きません。開演前の山本のリハ音とこれが同時に聞こえた時間帯はまた良い感じ。終演後毛利本人が話していたのを聞いたところ、みかんの個体によって出る音程や音の長さが違うそうで（糖度によるんじゃないか、とか）、時間をおいて聞くと全く違って聞こえたりするんだとか。腐る寸前のものだと死にそうな声になるとか（ホント？）。数を増やすとどうなるかとか、他の果物だどうなのかとか個人的に興味は尽きません。そして最終日ということで毛利本人がみかんの電極を抜いてパフォーマンスが終了するところまで見れたのが貴重というかなんというか。ちなみに片付けは翌日行うそうです。

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